りすぺくつしたい

歴史とか自分のルーツとか。ちょっと考えてみたい、少し阿呆な奴が生息しておりまする。

怒ったらダメなんだけど…

平日に、親の代理で業者に来てもらう時は、とても気を遣う。


何だって独り者のバブル世代が七十過ぎな爺婆の住所にて
真昼間っから応接間でぼへぇ~っとしとるのか。


もうこの時点で怪しい奴確定である。
青色申告である。


実際には、お手伝いした事務所では経理を学ぶまでもいかなかった。
勿論、白であった。


思い出すだけで泣きそうだ。


あとはあっちゃこっちゃ、吹けば飛びそうな学歴と資格で汗をかき恥をかき。
頭を下げてもやっぱりどうしても中途なもんだから、どっか図抜けて図々しくて尊大で。


色々な方に迷惑をかけて怒ってもらって、それ以上に沢山沢山庇われて。


でも、折角応えられそうになったら。
自分をきっちり管理出来なくて自分をぶっ壊してしまった。


なんっつー傍迷惑な奴なんだよ、僕って。


要領よく自分の食い扶持分だけ働いてくれるだけの方がどれだけありがたいことか。


一番周りを困らせるタイプ(上司にも同僚にも、そして下にも)だ。
長いことあちこちに迷惑をかけ続けて、やっとそれに気付いた。


自分が5稼ぐために周りが20損する働き手。


僕一人がくたばる迄喰うだけなら、こんなヤナ奴のまんまでもいいんだけど。
(全然ちっとも威張れないけれど、最低でも犯罪を起こして貴重な国のお金を減らさないだけはマシなので)


こんなことを呟いた或る日。


散々喧嘩して無視しあって傷付け合ってきた人達が、猶予期間をくれた。
僅かだけれど、ちょっぴりだけ在った、僕自身の貯え。


全部前倒しして、自分に投資してよろしい。
遣い切るまで兎に角修行期間にしてよろしい。


爺婆の面倒はみてもよろしい(喧嘩も程々に。仲直りは翌朝に。)


ただし、他人には決して貸さぬこと、借りぬこと。


そんな調子で、僕は爺婆の代わりに家の中を守っている…らしい。


真面目に彼等の生活の防御壁となってみると、暇なようで結構大変だ。
買い物のお付き一つ、ナビ役一つ、ちょっとした交渉役の代理だけでも、彼等に対しては根気が要る。


何分お年を召していらっしゃるので大変にプライドがお高いのだ。


これが、赤の他人ならば、彼らの世代は大変しおらしくていらっしゃるのだが。
幸か不幸か、僕は身内なんである。


ご自身の衰えを身内に(こそ)知られたがらない。
ご自身の非を目下へ(こそ)お認めになりたがらない。
ご自身の非をお認めになっても、世界が終わったりしないとお分かり下さらない。


最後の一行が一番泣ける。

それだけ、僕が彼等と信頼関係を疎かにしてきてしまった証拠なワケだ。


そこを認めて受け入れながら(大変僕にも難しいんだけれど)毎日やっている。


で、我が家である。


古い家だけれど、さがんもんな爺さまが、まだまだあちゃこちゃ引っ張り出されるもんだから、電気製品が無駄に、やたらと多い。
解ってなくても頑張って遣うもんだから(七十の手習いって言うのかコレ)とにかく日々何かが止まったり不具合だったりするらしい。


オマケに婆さまが説明書やら保証書やらを必ず何処かへやってしまう。
纏めて置いて整理して、でっかく貼紙して(付箋だと彼等にはもう見えないのだ)おいても。


…やっぱり、どっかへ行っている。


真面目にやっていると、ブチ切れ遠しである。
しかも、彼等には全くもって悪意はないのだ。


真面目にやっていると、やっぱり結構泣けてくる。


小さな資格で一日中走り回って、やっと僅かな稼ぎを頂いていた頃より...疲れる。
だって、どんなに頑張っても当たり前。


誰も褒めても叱ってもくれない。
しかも無収入。
毎朝カードを改札に食べさせる楽しみも(楽しかったと思っちゃうんだ、これが)、今はない。
おまけに。外からは、僕が食わせてもらっているとしか映らない(そしてその通りなのだ)。


よって、業者を予約して来てもらうのはとても気を遣う。


僕が生ぬるい目で見られるのは、別に良いんだ。
別に、今更だし。


土佐の家(今は、もう存在しない)に残った人は、孤独死だった。
あれが、僕の未来。


彼は、お金が尽きる前に去った。
残ったぼろ屋を始末する兄弟がいた。


其処だけが僕と違う。


こちらの家の爺さま婆さまを送ったら、僕を送る誰かはいない。
其処だけを腹に据えて、今日も生温い目の業者さんをお迎えする。


初老の人だった。


僕が散々迷惑をかけた世代の人達。
頭痛をこらえながらメモとボールペンを片手に付きまとう僕を、邪険にも出来ず怒る訳にもいかず。
僕の同僚達のように、はっきりと「邪魔だ」と僕へ言えなかった立場の人達。


せめてこの人には、気持ちよくお仕事をして帰ってもらおう。


だからって、僕を本当に怒れなかった人達へ何にもなりはしないんだけれど。
そう思いつつも、頭を下げて挨拶した。
オペレーターさんに、今日の要件はもう伝えてある。


二度も確認させて、大変申し訳なかったから、一度コーヒーでも淹れて、
と、


「本日は、四つの件にてお邪魔しました」


んん?


「こちらに御繋ぎする為のシリアルが必要でして」


ああ、はいはい。こちらがメモです。
ちょっと字が汚いですけど、両方とも控えてありますよ。どうぞ。


「.........」


んんん?


「少々、本体を拝見させて頂きたく...」


え、そんなに読みにくいですか?確かに綺麗じゃないけれど...
その分大きく書いておいたんですが。
まだ小さいですか?


それじゃぁ...。


「いいえいえ、本体を確認させて頂かないと...。
その、え~っと、こちらが小文字かもしれなくてですね」


んんんん?


「いいえいえいえ、とにかくその!
本体に重要な記載がありましてですね...」


ああ、はぁ。
では少々散らかっておりますが、こちらです。


「こちらですか、ああここれだこれだ。
では失礼して...」


......。


あの~。
失礼ですが、
その、何をしていらっしゃるのでしょうか?


「ああ、いえいえ、ここを確認しないと
少々設定に必要な事項がですね...」


.........。


はぁ。
では、お願いしておいたことは?


「はいはい、もう大丈夫です。
それで、後の要件はいかがしましょうか?並行して作業させて頂きますよ?」


......。


えぇと、ひとつずつで。
ゆっくりで結構ですので。


「はいはい、かしこまりました。
作業中は立会願います。大変お手数ですが、これも規則でして」


まぁ、そうですよね。はい。




......。




あの。


「はい?」


失礼ですが、最近入られた方ですか?


「いいえ、私は長いですよ(かたかた)」


......。
えぇっと。


オペレーターさんと連絡は取れなかったでしょうか?
平日ですし、もしかしてそちらにも何か都合があったのでは...。


「いえいえ、伝達はきちんとしておりますよ?
ご心配なく(ゴソゴソ)」


......。
あー、その。
お電話した時、聞こえ難かったですか?
僕、その、たまに声がくぐもっていると言われるんで、もしかしたら…。


「いいえいえいえ、そんなことはございません(何かやってるッポイ)」


は、はぁ。


「ああ、それでは失礼して、付属機器の点検を。
設定も行いますのでよろしいでしょうか?」


ああはい、こちらです。お願いします。


......。




あのー。慣れていらっしゃらないなら、その、
大変申し訳ないんですが、出来ればキチンと仰って下さるto 


「いぃえいいえいいえいえ!
慣れておりますよ!大丈夫です!」







   ぷ っ ち ん 。











それから後は、もうどうしようもなくどうしようもない時間だった。


オペレーターさんと予約時にお願いしたこと、全ての事項を読み上げ
その際に「これだけはよろしく」と念を押させてもらったこと(大変申し訳ないと毎回謝罪しながら頼むこと)を、何故か実地で来た技師に繰り返して確認してみせるハメになり


初老の技師さんは決して僕を見ようとはせず
僕はクレームをつけたいのではない、と何度も繰り返し
技師さんは赤べこのようにウンウン肯いては唯々謝り続け
けれども、口先だけでこれから何をどうしようという方向へは決して向かず
というよりも向けようとすればするほど技師さんはますます何処かを見つめ続け


結局。何一つ解決しなかった。


オペレーターさんにお願いしたこと。


今回の出張は、契約プランに含まれるサービスなのは確かだけれど、
(現実には僕んちの利用頻度じゃ、明らかに向こうの足が出てしまっているのだ)
申し訳ないから、人手が足りぬようなら(そちらと契約した)プランはこのままで、別のところの出張サービスを今回だけは受けたい。


それは可能か、失礼ではないか。との確認。



我が家の爺婆が結構な年齢なうえ機械音痴で耳も目も大分きていること。
同居中の僕も体調が(恥ずかしながら)良かったり悪かったりで、
それを前提にサポートを受けられるかという問い合わせ。



その際の料金の変更について。



何一つ、この白髪の技師さんに伝わっていなかった。



年寄りが増え若者が減っていくここいら全てを網羅している業者さんなのに。
だからこそ、「末永くお付き合いしたいから」と時間をかけて相談していたのに。



この人だって、あと数年したら、サービスを受ける(ことが出来れば)側になるのに。



そうなのだ。



要するにこの人。
何のことはない、僕がぶっ壊れる原因を作っってくれた方の人種だった。



何やってんだか、僕は。
こういう人を見る目がないから、なかったから。



今此処で、サービスを受ける側になって初めてこの手の人に説教できてる、なんて。


あんまりにも(色々な意味で)情けなさ過ぎて、やっぱり後で少しだけ泣いた。


仕方ないので、技師さんの名前を控えさせてもらって、
「うちには僕を除けば年寄りしかいないから、
そのような不誠実な応対をされる貴方に来て頂くわけにはいかない」
と、伝えるハメになった。


やっぱり彼は首をカクカクするだけで、形だけの謝罪を繰り返していた。
他に、言うべきこと、やるべきことがあるのに。


まだ、間に合うのに。
嗚呼、僕が後で電話を一本かけたら、この人は。


こんなに白髪ばっかりなのに。
息子がいるなら僕より、きっと。
けれど、僕の親父さまは、この人よりも、もっと。


悩んでいると、技師さんが最後の点検票を差し出してきた。
これに、こちらが印を付けないと彼は帰れないシステム。


引き延ばしたって仕方がない。
僕は、タッチペンを受け取った。


「こちらの『説明を受けましたか?』に、『はい』をお願いします」


......。
えぇっと。
その説明、いつ、なさいました?


「しましたよ!先程削除についてきちんと...」





    ブゥチィッ。






先程から何度も申し上げて居ります通り僕はクレームを付けているのではなく貴社との誠実な関係を願っているのでありましてついてはしつこいけれどもうちには年寄りばかりで貴方のご説明では今後いらしてもらっても七十過ぎの四大卒レベルでは削除=アンインストール済という用語を理解出来ないわけでしてそれ以前に先程から、最初っから、スマートフォンを操作可能ならば出来ることをイチイチ引き延ばしながら誤魔化しつつ延々おっかなびっくりされるというのはこちらとしても大変心苦しくてですねだからこそ何度も「正直にお話いたしましょう」とお願いしておりまして其のたびに貴方も「承知しております」と肯いていらして以下略







その日の午後。
珍しくお袋さまが声をかけてきた。


「甘いもんでも、どう?」


僕が落ち込むと、お袋さまは甘味を食らわせたがる。
土佐女って、砂糖取ってりゃガキは幸せとでも思ってんだろうか。


結局、町までお供して、小さなカフェに落ち着いた。


勿論、
お茶代と交通費は、やっぱり僕持ちだったですとも。

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